アジアスケッチ旅行

Asia Wave 2008 1月号-7月号に掲載

浅草雷門   日本・東京にて

浅草雷門一時帰国した時に浅草へ行く用事が出来た。
地下鉄都営浅草線の浅草駅で下車して地上に出てから浅草寺の仲見世へ向かって歩いて行くと、歩くのが困難になるほど通行人が多くなってきて雷門の前には人だかりが出来ていた。デジカメやカメラ付き携帯電話で巨大な提灯を背景に記念撮影をする人が後を絶たない。その中でスケッチしようかどうか迷ったが、柵に凭れ掛かり立ってスケッチを始めた。
周りからは日本語はもちろん英語や中国語、韓国語も聞こえてくる。私の近くを通りがかった色々な国籍の人が私の絵を覗き込む。絵と現物を見比ぺながら頷いている人もいる。感心してくれたのか微笑みながら去って行った人も何人かいた。

バンコク俯瞰   タイ・バンコクにて

バイヨークスカイホテルの展望台からシーロム、スクンビット方面を眺める三〇九メートルの高さを誇るバンコクのバイヨークスカイホテルの展望台に兄と共に登った。
最上階の八十四階展望フロアはガラス張りでなくフェンス越しになっていて、上空の風を体に受けながら市内一望することが出来る。しかも金属製の床がゆっくりと回転しているので歩かずに三六〇度の景色が楽しめる。
我々が行った時は床が動いていなかったので歩いて一周したが、突然ガガガッと音がして床が動き出したので驚いてしまった。立ち止まり回転する床と景色をしばらく堪能した。その後ガラス張りの展望フロアに下りて、高層ビルの密集するシーロム、スクンビット方面の風景をスケッチすることにした。描き始めはまだ青空だったが着彩の頃は徐々に紫色になり、筆を置いた時には綺麗な夜景が拡がっていた。

クレット島の斜めの仏塔   タイ・バーククレットにて

クレット島の斜めの仏塔バンコク市内からチャオプラヤー川を遡るとお菓子と陶器で有名な島がある。
ある日、兄と私はラチャヨーティンバス停からバスに乗り約三十分、クレット島の入口である終点パーククレットに昼頃到着した。 先ずは食事をと川岸で麺を啜っていたが食ぺ終わる直前雨が降り出し、間も無く激しいスコールになったので橋の下でしばらく雨宿りしていた。
雨が上がってから渡し舟に乗って島へ渡り、時計回りに歩いて島内を一周した。ほのぼのとした風景の中を歩き続け、くたびれて途中休憩し、さらに先を行くと賑やかな商店街が現れた。買い物をしたあと島の名所の一つの傾いた真っ白の仏培のそばまで行き、日が暮れ始めた頃対岸に戻って、仏塔が良く見える船着き場から兄と共にスケッチ。釣りを楽しんでいた少年達が興味深そうに寄って来た。

バターワース駅   マレーシア・バターワースにて

バターワース駅十四時二〇分発バンコク中央駅行き国際列車に乗るためぺナン島からの渡し船を下船した私は駅へ向かった。
まだ昼食を摂っていなかったが、駅構内の風景をスケッチしておきたかったので階段の脇に座り道具を出した。しばらくして駅の職員が私の絵を見て何か話し掛けてくる。彼と雑談しながら私は描き続けた。
だんだん出発時刻が追ってきたので適当なところで切り上げ駅前食堂で腹ごしらえをすることにして、イ力とマトンの入った力レーを大急ぎで食べ、アイスミルクティを喉に流し込んだ。
駅に戻ると一番線ホームに私が乗る列車が停まっている。十分前に乗車してひと息つき、発車を待ったが動き出す気配がない。急ぐ必要はなかったなと思い、結局十四時四十五分過ぎてようやく風景が流れ出した。

タイ湾を望む   タイ・シーラチャーにて

シーラチャーからタイ湾を望む海でも見に行こうと兄と共にバンコクの工力マイバスターミナルから八時発のシーラチャー行きバスに乗り、二時間ほどでタイ湾に面する港町に到着した。
この町は、周辺に日系企業の工場が建ち並ぶため、多くの日本人駐在員とその家族が住んでいる。町中には日本人向けの店があちこちにあり、日本の文字も至る所で目にした。
我々は先ず食堂で腹拵えをし、その後新鮮な魚介類を扱う市場で買い物。それから海の目の前の公園まで歩き、力フェでひと休みしたあと岸辺の岩場の上に腰掛け、心地良い波の音を聴きながらスケッチした。
描き終えてから右前方に見える橋の向こうのローイ島まで歩き、島内を散策。陽が暮れる前にバンコクに戻り、夜の食事は昼間市場で買った魚を料理して、ビールを呑みながら心地良い時を過ごした。

タイ市場   タイ・パトゥムターニーにて

生鮮市場路線バスに乗って、自由市場と訳す野菜と果物が中心の生鮮市場へ足を伸ばした。
国道一号線であるパホンヨーティン通り沿いに面し、入口から奥に進んで行くと大型資物トラックが何台も行き交い、業者の人がせわしなく動き回っている。大量の荷物を両手に持ちこの場を去って行く客も目に付いた。
非常に活気があるこの市場は全国各地から新鮮な野菜が集まり、ここを経由して他の市場へ流れて行くという。そのため驚くほど値段が安いのだが、残念ながら小売販売はほとんどしていないので私は買う物が無く、冷やかしながら市場内を歩き回った。
一軒の店が店仕舞いをする頃、美味しそうなトマトを見つけ一キロ分購入した。トマトをリュックに詰めて別の場所へ移動し、市場のほんの一部をスケッチしてから家路に着いた。しばらくはほぼ毎日トマトを食べ続けた。

惣菜市場   タイ・チェンラーイにて

惣菜市場町の中心部よりやや北に位置する時計塔の近くの市場では道路脇に沿って惣菜屋台がパラソルを並べ、タ方前には多くの庶民で賑わい活況を呈している。
この日私はスケッチしたあと宿に戻って軽く腹ごしらえでもしようと思い、適当なつまみはないかと物色して歩いた。
人だかりが出来ている屋台があり、覗いて見るとフライドチキンを売っていた。揚げたてのフライドチキンが十数個金網の皿の上に載せられると同時に次から次へと飛ぶように売れ、あっと言う間に売り切れ、また次のが揚がるまで待っているという具合である。私も辛抱強く次に揚がるのを待ち、美味しそうなのを一つ選んで買い求めた。それから別の店で北タイ風味のハムとソーセージを買い、急いで宿に戻って包みを広げ、口にした。美味しくてあっという間になくなった。

ゆったりした流れ   ラオス・サワンナケートにて

メコン川のゆったりした流れタイのムクダハーンバスターミナルから国際バスに乗り、メコン川に架かるタイーラオス第二友好橋を通ってラオスに入国した。 タイでの六十日間滞在ビザを取るためタイ領事館に赴きビザの申請をして、それからゲストハウスを探して歩いた。
チエックインして荷物を置き、ひと休みしてから町の中をあてもなく歩き回った。太陽はまだまだ高い位置にある。川岸を散歩し、適当な所で腰を下ろして、今はラオス人とタイ人しか利用出来なくなった両国を往複する渡し船を目で追っているとようやく日が暮れてきた。川岸の屋台に陣取りメコン川に沈むタ日とラオスの郷土料理を肴にビールを呑み夜のひとときを楽しんだ。
翌日の午後パスポートを受領したあと、領事館近くの川岸から見える友好橋とメコン川の風景をスケッチした。

ムーン川夕景   タイ・ウボンラーチャタニにて

ムーン川夕景駅まで行って翌々日のバンコク行き列車のチケットを買い求めたあと、私はピックアップバスに乗って私の泊まっているホテルのある地区に向かつていた。
橋を渡って二つ目の交差点を右に曲がってすぐの所が下車地点である。まだ少し時間に余裕があるなと思いのんびり車窓の風最を楽しんでいたが、橋を渡っている最中今まさに太場が川の向こうの地平線に沈もうとしている瞬間であった。橋を渡り切った所で私は慌ててブザーを押して飛び降り、乗車賃を払うと大急ぎで橋の上まで駆けて行った。
辿り着いた時には太陽は沈んでしまっていたが、空と川は綺麗な茜色に彩られていた。私は急いでスケッチ用具を取り出し、欄干に腕を乗せぺンを走らせてから一気に彩色した。

キャンドルモニュメント   タイ・ウボンラーチャタニにて

キャンドルモニュメント私が宿泊していたホテル近くの市場内食堂でトリ肉入り粥の朝食を食べながらお店の人たちと他愛もない会話を楽しんだあと、カボチャプリンのようなお菓子を買って近くの公園の中をぶらついた。
昼十二時のチェックアウトまではまだ時間がたっぶりあったので、公園内に聳え立っているロウソク祭りのモニュメントをスケッチすることにした。
省略してウボンと呼ばれるこの町は毎年七月の満月の頃、仏教行事の三宝節と安居入りの日に蝋で出来た彫刻作品を山車に飾り付け、市内を練り歩く盛大な祭りが開催される。私は筆を動かしながら、京都の祇園祭に雰囲気が似ているかなと思いを巡らしていた。
十時半を過ぎた項筆を置き、力ボチャプリンを食べて一服してからホテルに戻った。

ソイ39のシーローのりば   タイ・バンコクにて

ソイ39のシーローのりば日本人の多く住むスクンビット地区のスクンビット通り三十九番の路地を曲がってすぐ道路脇に客特ちしているシーローが列をなして停まっている。
シーローとは軽トラックの荷台を改造して長椅子を取り付け六人ほどが乗れるようにしたタクシーのことであり、メーターは付いていない。タイの生活に慣れた駐在員の奥様方は気軽に乗って利用している。ちなみに、在タイ日本人の間ではシーローと言うが、タイ人は尻上がりに「スバルゥ」と呼んでいる。
私は前に一度この場所でシーローを描いたことがあったので、今回は道の反対例からスケッチすることにした。まだ出番のないドライバー数人が私の絵を見に来て、笑い声を上げながら話し合っていた。日が暮れる頃、陽気な彼らに別れを告げ私は去った。シーローには乗らずに。

カサミアレストラン   タイ・メーソートにて

カサミアレストランドンゲーオ通りにあるこの店は美味しい料理を出すことで人気があり、私が訪れた時はいつも数組の西洋人が食事を楽しんでいた。 メニューには西洋料理、タイ料理、ミャンマー料理が記されている。私が特に気に入っている料理は、味付けも茹で方も申し分なく値段も格安の各種パスタ類と茶葉の佃煮といった趣のものにトマト、キャべツ、ガーリック、ピーナッツ、唐幸子などを混ぜ合わせたティーリーフサラダというミャンマー料理である。
タ刻前、雨がぱらぱらと降って来たが庇のある階段に腰を下ろしてスケッチを始め、しばらくすると店で飼われている犬が私のそばに寄って来て絵を覗き込み尻尾を振っていた。描き終わって店に入り、馴染みのウエイターに絵を見せるととても喜んでくれた。 私は気分良く食事とビールと彼との会話を楽しんだ。