アジアスケッチ旅行

アジアスケッチ旅行 2007年

Asia Wave 2007 1月号-12月号に掲載

ベークロー難民キャンプ   タイ・メーラにて

ベークロー難民キャンプゲストハウスでバイクをレンタルしてメーソートの町から六〇キロほど北上した所にあるベークローという名の難民キャンプに行った。キャンプ内にはミャンマーから越境して来た多くの人が所狭しと住んでいる。娯楽も少なく生活環境もほとんど整っていないようだった。
私は橋の下の小川の目の前にバイクを停めスケッチを始めた。すぐ近くで子供たちがサッカーをして楽しんでいたが、私に興味を示したらしく数人の子が近寄って来てペンを動かす私の手をじっと見つめていた。絵を描き終えた頃にはたくさんの大人や子供達が私の周りに集まっていた。私のそばに最初からいた男の子と女の子の顔を描いて絵をプレゼントするととびきりの笑顔で喜んでくれた。
この場所を離れる時、二人の子はいつまでも、いつまでも手を振ってくれていた。

麗しき田園   タイ・メージャラオにて

タイ・メージャラオの田園風景メーソート市内のゲストハウスでバイクをレンタルして、メーラという所にあるベークロー難民キャンプを訪れた帰りのこと。道の両側に拡がる田んぼが目に入り、その美しさに心を惹かれて道端にバイクを停めた。木陰に入り水を飲んで休憩してから紙とペンを取り出し、バイクのシートにもたれながらスケッチを始めた。時々車やバイクが私の横を通り過ぎて行ったが歩いている人は一人もいなかった。虫が私の周りを飛び回っているだけの、のどかな時間が過ぎて行った。
描き終えた頃には陽が傾き始めていたので急いでスケッチ用具をバッグに収め再びメーソートに向かってバイクを走らせた。

タイ国鉄夜行列車   バンコク発カンタン行き列車内にて

バンコク発カンタン行きタイ国鉄夜行列車タイ南部の町トランへ行くため一八時二〇分発のカンタン行き夜行列車に乗り込んだ。列車は定刻通りバンコクのホワランポーン中央駅を出発した。
三〇分ほど経った頃小さな駅に着いてしばらく停車していたのでスケッチでもしようと思い立った。進行方向右側の私の座席はホームの反対側で、車窓からの風景はライトに反射したレールと遠くに見えるオレンジ色と白色の街灯、そして小さく見えるビルの灯りの他は闇が拡がっている。先ずは車内から描き始めた。窓枠とカーテンとガラスにペイントされたタイ国鉄のマークを。それから外の景色を描こうとしたら列車が動き出してしまったので、揺れる車内で悪戦苦闘しながら筆を動かしていた。ふと気が付くと近くに座っていた男の子が私のそばに来て、背伸びしながら私の描く手元を真剣に見つめていた。

パークメンビーチ   タイ・トランにて

パークメンビーチビーチのあるパークメン方面へ行く乗り合いバンがトラン駅近くから出ていることを知り、宿泊していたホテルから歩いて乗り場へ向かった。早く、早く!と車掌が手招きしながら叫んでいるので急いで行くと、エンジンをふかしたバンが停まっていた。私が飛び乗ると勢いよく発車した。
海が見えたと思ったらそこが目的地。ビーチには人がまばらで活気がないが、のんびりするには丁度良い。露店で子持ちイカのフライとエビのかき揚げを買い、木陰に置かれたベンチに座って穏やかな海を眺めながら海の幸を味わった。
食後波の音を聴きながらスケッチしていると突然スコールになり二〇分位屋根のある場所に避難した。雨が止み晴れ間が戻ってからもう一枚スケッチをして、トランの町へ戻るバンを待った。

ペナンヒルからの眺め   マレーシア・ペナン島にて

ペナンヒルからの眺め宿で地図を見ていたら標高八三〇メートルのペナンヒルにはケーブルカーがあることを知った。翌日、地元の人に道を尋ねながら市内バスに乗り、途中下車して坂道を登って行くと観光客で賑わっているケーブルカーのりばに着いた。待合室には多くの人が乗る順番を待っている。長い時間待って乗り込んだ車内は身動き出来ないほどの混雑。十五分位か、終点かと思った場所は乗り換え駅。隣のホームに待機していた車輌に移り再び山頂目指して登って行った。駅を出て山頂へと続く道の途中には飲食類や衣料品、様々な土産物などの露店が並んでいて、広場ではマジックショーやコブラ使いのスネークショーが行われていた。
私は見晴らしのいい場所から眼下に望む風景をスケッチした。通り過ぎる人が私の絵と風景を見比べてホーッと言った。

高原の茶畑   マレーシア・キャメロンハイランドにて

キャメロンハイランドの茶畑ペナン島の対岸の町、バターワースから長距離バスに乗っておよそ五時間、キャメロンハイランドのタナーラタという町に到着した。ペナン島に滞在していた数日は厳しい猛暑だったが、ここは涼しく快適に過ごせる所であった。
翌日、現地で購入した地図を頼りにマレーシアでは有名な製茶メーカーの工場を訪ねることにした。バスに乗って途中下車、そして車一台通るのがやっとの狭い坂道を歩いてしばらく行くと見渡す限りの茶畑が視界に拡がった。茶の香りが漂い気分もリフレッシュ。工場まではかなり遠かったが十分満足のいく道であった。工場見学のあと併設されたカフェテラスで紅茶を飲みながらのんびりスケッチ。優雅な時間を堪能した。

チャイナタウンの漢方薬店   シンガポールにて

チャイナタウンの漢方薬店ブギス駅から地下鉄を乗り継いでチャイナタウンまで行った。騒々しく雑多な街をイメージしていたがここはやはりシンガポール、整備されていて歩きやすく、また狭いエリアなので道に迷うこともない。どこかでスケッチでもしようかと思い散策してみたが土産物や飲食店など観光客向けの店が多く、今一つ心に響いて来るものがない。スケッチせずに立ち去ろうと思いながら歩いていた。駅に戻る途中賑やかな場所で一枚描いたあと、漢字でシンガポールという文字が目に付き店先の様子も面白かったので正面からスケッチすることにした。ペットボトルに詰められた漢方ドリンクを買って飲みながら描き、完成してから店主に見せると嬉しそうに豪快に笑った。漢方ドリンクは宿に持ち帰ったが、あまりの苦さに飲み切るまでかなりの時間を費やした。

噴水を見上げて   シンガポールにて

ショッピングモールの敷地内にある巨大な噴水サンテックシティというショッピングモールの敷地内にある巨大な噴水は英語名Fountain of Wealth、中国語では財富之泉という名でシンガポールの名所の一つになっている。
昼間ウィンドーショッピングを兼ねてサンテックシティを訪れた私は噴水のすぐ近くまで行ってしばらく水の流れ落ちる様を見ていた。ドーナツ状のパイプの内側に開けられた穴から中央に向かって勢いよく水が放出されている。滝の様な、スコールの様な噴水を見上げながら地べたに座ってスケッチを始めたが描き上がらないうちに放水が止まってしまった。
そのまま描き続けていたらマレーシアから旅行で来たという学生数人が私の絵を興味深そうに眺めていた。彼らと雑談しながら描き上げた。

輝く仏塔   ミャンマー・タチレイにて

輝く仏塔だいぶ日も暮れて来たので食事でもしようと昨晩何の気なしに入って美味しかった食堂に向かって歩いていた。
ふと左方向を見るとライトアップされた仏塔が闇の中に光っている。派手派手しくなく幽幻的で神秘的に。
美しいと感じた私は街灯の灯りの下でスピードスケッチを始めた。しばらくして通行人が私を見て不審な顔をしながら通り過ぎて行く。参ったなあ、と思いながら急いでぺン描きを終わらせ彩色の段階に入ったが、頼りない蛍光灯の光では思い通りの色が出せない。程良い所で切り上げ食堂に向かった。
注文した料理が運ばれて来るまでの間に少し補正して完成。食堂の人と談笑しながら料理の味に満足し、気分良く食事を終えた。

漁をする光景   タイ・パヤオにて

グワーンパヤオ湖の狩漁風景タイ北部地方最大の面積を誇るグワーンパヤオという名の湖を見たくてチェンラーイの町からバスに乗ってパヤオへ向かった。
一時間半でパヤオのバスターミナルに到着。ちょうど十二時だったが昼食は後回し。歩いて湖岸まで行き、湖を右手に見ながらのんびり散歩した。漁をするためのボートが繋いである辺りで一枚スケッチしたあと、歩いて来る途中にあった食堂街の中の一軒に入り目の前に湖が見える席に陣取って遅い昼食を楽しんだ。
食後、湖を眺めながらまどろんでいると漁をしている小舟が視界に入った。網を投げては手繰り寄せる動作がシルエットになって、ぼーっと見てると時の経つのも忘れてしまうほど心地良く魅入ってしまった。
しばらくすると空樓様が怪しくなってきた。漁はまだ続いている。一枚描いてから店を出た。

紅色に染まるメコン川   ラオス・フエサイにて

紅色に染まるメコン川イミグレーションチェックポイントにほど近いゲストハウスの、窓から川が良く見える部屋を希望してチェックインした。
昼間は川治いの道をのんびり歩き、途中立ち寄った食堂や丘の上の寺院からメコン川のある風景を数枚スケッチ。ゆったりとした時間が流れていった。
空が赤みを帯びて来た頃私は部屋に戻り、ぺランダに出て飽きることなく目の前の光景を眺め続けた。ババイヤの木のある庭の向こうに滔滔と流れる紅色の川の水。ここフエサイと対岸のタイのチェンコーンとを行き来する渡し舟。ビアラオという名のラオスビールを飲みながらしばらく見惚れていた。
辺りが暗くなる前にスケッチをして、ふと隣のベランダを見ると白人旅行者がビール片手に川を見続けていた。私と目が合うとお互い微笑んだ。

麗しき緑と遺跡のある町   タイ・アユタヤにて

アユタヤのい麗しき緑と遺跡のある町日本の友人と共にアユタヤを訪れてから一ヵ月後、私は一人で同じ場所へ足を運んだ。タイ正月の時にお世話になったタイ人家族を訪問して、友人が撮影した彼らの写真を手渡すのが目的であった。
再訪した当初知っている入が誰もいなくて困惑したが、隣の食堂で私のことを覚えている人がいてほっとした。注文した麺を啜りながら雑談している最中、家族の数人が戻って来て再会を喜んだ。
目的を果たすことが出来、ひと息付いてから道路の向こう側に見えるワットジャオプラーという遺跡をスケッチ。周りの緑が麗しく心が和む。冷たい飲み水の差し入れに感識しながら絵を描きあげた。
またいつの日か再会を、と言って彼らと別れた。